冷気をまとう、都市を歩く。
橘 誠一がこのブランドを立ち上げたのは2019年の冬でした。当時、アウトドアブランドのプロダクトデザイナーとして7年間働いた後、「街で着られる本物の防寒着がない」という実感が積み重なっていました。山岳用のウェアは機能的すぎて都市では浮く。ファッションブランドのコートは見た目は良くても、東京の底冷えする2月の朝には力不足でした。その隙間を埋めるために、橘は自分のアパートの一室でパターンを引き始めました。
最初のサンプルは2020年の春に完成しましたが、正直なところ失敗作でした。エアポケット構造の縫い代が甘く、着込むと肩のラインが崩れてしまったのです。岐阜の縫製工場の担当者に相談し、ステッチの張力と縫い代幅を見直すことで、3回目のサンプルでようやく納得のいく一着ができました。その年の秋、東京・代々木上原の小さなポップアップで初めて販売し、準備した12着が2日で完売しました。その手応えが、本格的なブランド展開への踏み出しになりました。
現在はオンラインストアを中心に、年2回のコレクションを発表しています。素材は国内外の展示会で直接確認したものだけを採用し、DWR加工の仕様書は毎シーズン工場と一緒に見直しています。お客様からよく言われるのは「5年着ても飽きない」という言葉で、それがいちばんの評価だと思っています。流行を追うつもりはなく、10年後も同じシルエットで作り続けることが目標です。